国土交通省は、令和7年9月30日付で「注文書及び請書による契約の締結について(改正)」を各都道府県に通知しました。この改正により、継続的・反復的な取引実績のある発注者と請負者の間では、基本契約書を締結していることを前提に、個別の注文書・請書への押印を省略できることが正式に認められました。

本記事では、建設業許可の実務に関わる行政書士の立場から、この改正内容と実務上の注意点をわかりやすく解説します。

1.これまでの原則:建設業法第19条の契約義務

建設業法第19条では、建設工事の請負契約を締結する際、署名または記名押印を行った契約書を当事者間で交付する義務が定められています。これは、契約当事者を明確にし、工事内容や工期、金額などを双方が確認できるようにするための規定です。

現場の実務では、発注者が発行する「注文書」と、請負者が応じる「請書」を交換することで契約を締結するケースが多く、この方式も建設業法上の契約書面として認められています。

2.改正の背景:規制改革による契約事務の効率化

近年、電子契約や省力化の流れを受け、政府の規制改革推進会議からも「建設業界の契約事務負担を軽減すべき」との提言が出されていました。これを踏まえ、国土交通省は令和7年9月30日付で都道府県知事あてに通知を発出し、条件を満たす場合には注文書・請書への押印を不要とすることを正式に認めました。

3.押印不要が認められる要件

通知(国土交通省 不動産・建設経済局 建設業課長発出)では、押印を省略できるのは次の条件をすべて満たす場合に限られます。

  1. 発注者が消費者契約法上の「消費者」に該当しないこと
     (法人同士、または事業者間の取引であること)

  2. 基本契約書を締結しており、法令遵守や対等な関係を確認していること
     (元請・下請間でパートナーシップ構築宣言などが交わされていることが望ましい)

  3. 過去に継続的・反復的な取引実績があること
     (単発の取引ではなく、複数回の契約実績があること)

これらの要件を満たす場合、基本契約書に基づいて個別に発行される注文書・請書には押印を要しないこととされます。一方、契約金額が大きい場合や契約当事者の希望がある場合には、これまでどおり署名・押印を行っても構いません。

4.建設業者・発注者のメリット

この改正によって、次のような実務上のメリットが生まれます。

  • 繰り返し契約を行う元請・下請間での契約書面作成の手間が軽減される

  • 電子契約システムとの親和性が高まり、デジタル化が進む

  • 契約締結までのスピードが向上し、事務コストの削減につながる

特に、長年取引を続けている建設会社同士では、契約書の押印省略が大きな業務効率化効果をもたらす可能性があります。


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